寒い中、足をお運びくださる皆様と一緒に、興味深い発表者のお話を聞きながらスタートを切れまして、スタッフ一同たいへん喜ばしく感じております。2015年度もまた、よろしくお願いいたします。
さて1月は宮部さんと田川さんによる、情報システムとバレエという全く異なる分野の発表でした。
そのご報告です。
宮部さんは、開発されたアプリケーションのいくつかを紹介してくださいましたが、その一つがM³(エムキューブ)という病院での多言語対話支援です。病院で対応を受ける際、言葉が通じなくて困ることがあります。様々な言語の通訳者を常駐するわけにもいきませんが(人材不足、人件費の面においても現実的ではありません。)、命を扱う場として、意思の疎通ができないというのも大きな問題です。アレルギーを持っている人に間違った処方箋を出すというようなことがあってはなりません。ですが、病院を訪れる人の目的は多様ですし(受付でされるもっとも多い質問の一つに、道を尋ねるというのがあったそうです!)、それに対応できるだけのシステムとなってなくてはなりません。また、患者側のニーズに応えるだけでなく、実際に病院に設置できるような機械でもなくてはなり ません(当初は二台で考えていたそうですが、病院側から二台も置くスペースはない、といわれたそうです)。話を伺うにつれ、自動翻訳機能というだけでなく、様々な観点やニーズからシステムを構築していかなくてはならないのだとどんどん気付かされていき、非常に興味深かったです。
さて、いわゆるバレエの確立はルイ十四世の時代に遡るそうです。王の舞踏教師ル・ボーシャンが、ポジショニング(足の置き方の一番、二番、三番、など)やエポールマンという肩の姿勢を決めたそうです。一九世紀、フランスでは下火になっていましたが、今度はロシアでマリウス・プティパによって再び流行します。チャイコフスキーの音楽に振付し、「古典」とされる作品を世に出したのです。その後、セルゲイ・ディアギレフが20世紀の初頭にロシアバレエ団を引き連れてヨーロッパを巡回したことにより、ヨーロッパ中にバレエ・リュッス(Ballets Russes)旋風が巻きおこります。
次に見せていただいたのは、マッツ・エックという振付家の作品。もともと演劇畑の人らしく、バレエに転向したのは26歳からだったそうです。彼は「動作は言語である」と考えていたようで、必ずしも美的なものでもなければ、装飾でもないと捉えていたそうです。ですから、彼の作品を見ると、形式的には古典を踏襲していますが(『ジゼル』の再解釈)、その表現手法(舞台装飾やダンサーの身体表現)は全く異なります。田川さんはこうした古典の再解釈を通して、どちらかというと理解しにくいと思われがちなコンテンポラリー・バレエの面白さを話してくださいました。
一つ目の発表の時、医療における自動翻訳システムの構築のお話を伺ながら、コンピュータの技術的な開発の難しさに加え、言語を別の文化背景をもつ言語に翻訳する、という難しさも宮部さんの開発するシステムの困難に含まれるのだろうか、ということに思いを巡らせていました。すると、全くジャンルの異なるバレエでも、身体言語という観点が出てきており、今回は「言語」そのものについて色々と考えさせられる会となりました。