第12回(12月14日土曜日)のご予約は受付中です。
次回の内容は次のとおりです。

世界の見方をずらすこと

―ルネ・マグリットの絵画のもたらす「気持ち悪さ」―
利根川 由奈
(京都大学大学院 人間・環境学研究科 共生人間学専攻 博士後期課程3年 /日本学術振興会特別研究員DC2)
「これはパイプではない」という説明の上に描かれたパイプ。女性の顔を覆い隠す花束。人を押しつぶすほど巨大なリンゴ。ルネ・マグリットの絵画のモチーフはどれも身近にあるものですが、彼はその組み合わせ方を工夫することで、絵を見る者に気持ち悪さを感じさせます。彼がこのような絵画を描いた理由を、彼の思想と作品から探っていきます。

「私」の忘れ方―西田哲学入門―
中嶋 優太
京都大学大学院文学研究科博士後期課程満期終了 /大阪教育大学非常勤講師

たとえば、数学の問題を解いたのは、珈琲を飲んだのは、窓辺の花を美しいと思ったのは私である。それをひとは私という「個人」の経験だと考えるかもしれない。本当にそうだろうか? 「個人あって経験あるにあらず、経験あって個人あるのである」と語る西田幾多郎の少し変わった考え方を紹介します。


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今後の開催予定]
第13回 2014111日(土)14:0016:00
● 「アジアゾウの鼻先コミュニケーション」
● 「イルカの声に耳を澄ませて―イルカ研究者の漂流記―」

開催場所:
ハイアット リージェンシー 京都 地下1階Touzan
バー
605-0941 京都府京都市東山区三十三間堂廻り644番地
2
http://kyoto.regency.hyatt.jp/ja/hotel/our-hotel/map-and-directions.html

ご予約:
各回定員
20名 参加料3000円(茶菓子付)
お申込みは、メールまたは電話にてお願いいたします。

電話番号:
090-6662-0360
定員になり次第、受付を終了させていただきます。お早めに!!
ecoledetouzan@hotmail.co.jp

11回(11月9日)の報告です。

「新出史料から見る慶長遣欧使節」by小川 仁
 仙台に、1615年ローマで出版された『伊達政宗遣欧使節記』という書物が保管されている。著者はシピオーネ・アマーティという歴史学者。日本では、その名がほとんど知られていないアマーティは、どのような人物だったのか、彼自身は日本に対してどのような印象を持っていたのか、そんな興味から小川さんの研究は始まったのだそうです。

 アマーティが、イタリアのコロンナ家についてしばしば記述していることに目をつけた小川さんは、ローマにあるコロンナ文書館――現在は修道院付属図書館――で、修道士と寝食を共にして、ほこりとカビと闘いながら古い資料をひもとき、顧みられていなかった手稿などを発掘、あまり知られていなかった慶長遣欧使節とコロンナ家との結びつきという新しい側面を見出したのだそうです。IMG_1550















それらが教皇への報告書として書かれていることから、今度はバチカン文書館へ。そこに保管されていた『日本略記』の翻訳を完成しました。アマーティが書き記した日本の慣習・風俗・人間性のなかに、「年長者を尊び、苦痛や不幸に対して信じられないほどの忍耐力を持っている」とあるのですが、このことは3・11震災の際に欧米のみならずアジアでも賞賛された日本人像です。和食が世界遺産に登録されるようだけれど、「忍耐」という美徳も世界遺産に登録してもよいのかもしれないと感じます。そして、小川さんの研究もまた、まさに忍耐の成果!
 外国人の視点に、日本人の自分たちが知らないことや忘れてしまったことを再発見させてもらった気持ちです。
さて、使節団を派遣したのは伊達藩…伊達政宗…、政宗といえば「独眼竜」とか、名刀とか、その勢力と武勇の誉れが先行するのですが、スペインのマドリッドから大西洋を横断、メキシコはアカプルコを経て太平洋を横断するその海流に沿って伊達藩があったことから、藩の財政のために外交にも目をつけていたとなると、さすが「伊達者」というべきでしょう。東北の一大名が、立派な南蛮船を造ったときいて、その財力と技術力に驚きました。ボルゲーゼ展で支倉常長像を見たけれど、背景に描かれていたのは使節団の乗った日本製の船だったのですね。

 さて、次は筧さんの発表。外国人が捉えた東洋という点で、期せずして今回のふたつの発表には統一テーマを見出せます。



「ジャクソン・ポロックと書芸術」by筧菜奈子

 美大生だった筧さん、抽象彫刻作成という課題が出された際に調べたジャクソン・ポロックと遭遇。その作品に衝撃を受け、「これを理解できない限り、これ以上芸術に関わるわけにはいかない」と作家から学者へと進路を変更して今に至るのだそうです。研究を始めるきっかけというのは、本当に人さまざまで、それだけでもひとつの物語が書けそうです。

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第二次世界大戦後のアメリカで活躍したポロック作品の多くは、「壁紙」とまで揶揄されるように、大きなキャンバス一面に絵の具がしたたるだけで、何が描かれているのかは全くわからない。作品への影響については、

    パブロ・ピカソ

    大地に描かれたアメリカ・インディアンの絵

    精神分析

などが取りあげられることが多いのだけれど、ブラック・ペインティングと呼ばれる彼の作品に、数字や文字を見出せることからポロックと文字表現…すなわち第四の影響として日本の「書」との関係を探るというのが筧さんの研究です。

ポロックの名声を高めたのはグリーンバーグという美術批評家でした。彼は、第二次世界大戦勝利に乗じて「アメリカ独自の芸術文化の形成」を目論んでいたそうです。力で世界征服した後は、文化でも世界を牽引しようってわけですね。

グリンバーグはピカソ以来の芸術家としてポロックを取り立てたのだけれど、みずからの表現を追求したポロックを、最後はばっさりと切り捨てたのだそうです。そのきっかけとなったのが東洋芸術の影響をうけたと考えられるブラック・ペインティングで、ポロックの作品の中ではマイナーな存在となってしまった。アルコール依存症の晩年、交通事故による死、批評家の一言に人生を左右された芸術家の最期としては、あまりにもドラマチック。今では高値で取引されるポロックの作品ですが、そこにもまたグリーンバーグ以降の批評家の一言が影響しているのですよね。言葉って怖い…。ポロックの作品に度々出てくる数字「4」と「6」(ひっくり返して「9」?)。それが何を意味するのかは明らかではないそうですが、批評家や投資家など現代の美術市場をとりまくパワーゲームやマネーゲームに翻弄される作家の苦悩がそこに隠されているのではないか、なんて…ちょっと感傷的に…考えてしまいます。

彼の制作スタイルだけを見ても、確かに畳の上に置いた紙に字を書いている書道家のようでもあります。パレットと細い筆を手に、イーゼルにたてかけたキャンバスに向かう西洋画家たちとは違います。絵の具のしたたりやしぶきにまみれて自分の表現を追求したポロックの姿に私は、天上からしたたりおちる絵の具や、大理石の埃にまみれながら制作したミケランジェロの姿を重ねてしまいます。パトロンである教皇に翻弄されるミケランジェロが、システィーナ礼拝堂の《最後の審判》に自画像として描いた自分の抜け殻、同じような空虚さが晩年に撮影されたパスポート写真のポロックのまなざしから放たれているような…美術史を勉強している者はこういう感傷的なこと書いちゃぁだめなのですけれどもねぇ…でも、そんな気がしました。

そう思わされたのは筧さんの発表が、そういうふうに展開していたからかも…、あぁ、やはり言葉って怖いです。たぶん、発表を聴いたほとんどの人は、晩年のポロックの身の上にちょっと同情したでしょうから…。

IMG_1584また長くなってしまいました。小川さん、筧さん、面白い発表をありがとうございました。その後の茶話会では発表者を囲んで皆さん熱心に質問をされていました。話を聴くだけではなくて、新しい人とのつながりができるのを毎回楽しみにしているという方もいらっしゃいます。




今月のケーキIMG_1553

フランス産の少し塩分の強いチーズを使ったスフレ。軽い食感で食べやすく、気が付いたらお皿はからっぽでした。




今月のお花IMG_1536
エコールが始まる少し前に、隣のチャペルから花嫁さんと花婿さんが登場、お祝いのフラワーシャワーが二人を待っています。